1ヶ月で販売本数が1.5倍を叩き出した「鬼滅缶」の成功要因とコラボで達成したいダイドーの最終目標

#深堀りニュース

' 杉山 夏子 2020.10.30

ダイドードリンコ株式会社と鬼滅の刃のコラボ商品「鬼滅缶」の成功要因やコラボを通したダイドーの狙いを考察します。

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先日「ダイドーブレンド」を始めとしたダイドーのコーヒー販売本数が、前期に比べて約1.5倍になったことが缶コーヒー業界、そして各ニュースメディアで話題となりました。

ダイドーが毎月発表している「販売状況のお知らせ」によりますと、2020年9月21日〜2020年10月20日の間で
●自販機でのコーヒ飲料販売本数が前期に比べ119.4%を記録した
●流通でのコーヒ飲料販売本数が前期に比べ234.9%を記録した
ということが報告されており、これらの平均はなんと149.5%となっています。
1ヶ月の間に、自販機・流通平均して約1.5倍にまで販売本数を成長させたことがはっきりとわかりますね。

画像引用:https://www.itmedia.co.jp/news/articles/2010/27/news110.html

この販売本数増加には、10月5日の発売からわずか3週間で累計5000万本販売を記録した「鬼滅の刃とのコラボ」が影響しているとダイドーの広報は述べているそう。
社会現象化している人気TVアニメとのコラボ企画が功を奏したということになります。

ここで、疑問なのが、なぜダイドーと鬼滅の刃のコラボがここまでバズったのか。
ダイドーの売るための戦略が気になりますよね。

今回の深掘りニュースでは、ダイドードリンコ株式会社と鬼滅の刃とのコラボについて考察していきます。

社会現象にもなっている「鬼滅の刃」

鬼滅の刃とは、吾峠呼世晴(ごとうげこよはる)氏原作の人気コミックおよび、TVアニメシリーズのこと。
人を食らう「鬼」が蔓延る大正時代が舞台となっており、主人公・炭治郎が仲間と一緒に鬼と戦いながら、鬼と化した妹を人間に戻すというのが大まかなあらすじです。

わかりやすくも深いストーリーや、魅力的なキャラクターが多数登場するということで老若男女問はず人気を博しており、連日メディアを賑わせています。

10月16日公開された映画「劇場版 鬼滅の刃 無限列車編」は、たったの10日で興行収入100億を記録し、今や”社会現象”と言われるくらい話題です。

それゆえ、多くの企業がコラボ商品・サービスを展開しており、ダイドードリンコ株式会社の他にも、コンビニや鉄道会社、食品会社や衣類量販店などがこぞって鬼滅の刃関連グッズを売り出しています。

ダイドーが企画した鬼滅の刃とのコラボ商品「鬼滅缶」


出典:YouTube公式チャンネル「dydojp」

ダイドードリンコ株式会社は、もともと自社で販売していた
●ダイドーブレンド ダイドーブレンドコーヒーオリジナル
●ダイドーブレンド 絶品微糖
●ダイドーブレンド 絶品カフェオレ
の3種類の缶コーヒーでコラボを実施。

作中に登場するキャラクターをデザインした全28種類コラボ缶、通称「鬼滅缶」を10月5日から発売しています。

出典:ダイドードリンコ株式会社

わずか約3週間で累計販売本数5000万本を突破

鬼滅缶の人気は凄まじく、発売からわずか約3週間で累計販売本数5000万本を突破。
これは、2020年10月22日に報道関係者に向けて発表されており、こちらのニュースも業界では話題になりました。

画像引用:https://www.dydo.co.jp/corporate/news/2020/201022/pdf/20201022_01.pdf

発売日からわずか3週間で5000万本というのは、単純計算で1日あたり238万本の鬼滅缶が売れたということですので、非常に驚異的な数字です。

これが3週間続いた上に他の種類の缶コーヒーも売れているわけですから、2020年9月21日〜2020年10月20日の売り上げ本数増加にコラボ缶が大きく関わっていることは明らかですよね。

鬼滅の刃とのコラボにおけるダイドーの成功要因

さて、鬼滅の刃とのコラボが功を奏したその要因は一体何だったのでしょうか。
私なりに分析した結果、次の3つが成功要因だったのではないかと考えています。

成功要因①:特典をつけて「希少性」を高めた

鬼滅缶には、物語に登場するキャラクターがデザインされているだけではありません。
缶にはQRコードがついており、コードを読み取ると特設サイトに遷移し、デザインされているキャラクターのボイスが聴けるようになっています。

出典:YouTube公式チャンネル「dydojp」

このボイスは、鬼滅缶完全オリジナルなので、他では聞くことができません。
そこに「〇〇限定」という希少性が生まれるため、希少性の原理(手に入りにくいもの・数が少ないものほど価値が高いと感じる現象)に伴い、鬼滅缶の価値が高まったのでしょう。

その結果、「この期間に手に入れておきたい!」という心理状態になった人が多く、購買に繋がったものと考えられます。

ちなみに、「期間限定」や「〇〇限定」というのは商品・サービスの価値を高める定番の手法です。

成功要因②:多くのキャラを登場させることでより多くのファンを取り込む

通常、コラボ商品のオリジナルパッケージといえば、せいぜい5,6種類程度のところを、鬼滅缶ではなんと3ブランド合計、28種類も展開しています。
全28種を通し、およそ20人前後のキャラクターを企画に登場させており、特典もデザインのキャラクターに即した内容となっています。


出典:ダイドードリンコ株式会社

もしこれが極端な話、鬼滅缶に登場するのが、主人公・炭治郎と妹・禰󠄀豆子のみだと、冨岡義勇のファンや胡蝶しのぶのファンには買ってもらえない可能性が出てきてしまい、機会損失につながります。

おそらくダイドーは、作品自体だけでなく、それぞれのキャラクターにかなりのファンがついていることを見抜き、多くのキャラクターを登場させることで、よりたくさんのファンを企画に取り込むことに成功したのではないでしょうか。

成功要因③:コラボ商品に手軽な「缶コーヒー」を採用した

ダイドーでは、ペットボトルのコーヒー飲料も展開していますが、今回あえて「プルタブ式の缶コーヒー」でコラボ企画を打ち立てています。

鬼滅缶の成功には、希少性が高いことや種類が多いことだけでなく、今回のコラボが「プルタブ式の缶コーヒーだった」というのも関係しているのではないでしょうか。

というのも、アニメや漫画のグッズが販売されると、少なからず「箱買いして全種類コンプリートしたい」「全部とは言わないけれど何種類かは欲しい」というファンがいます。
今回のコラボでも、そういったファンがいたかと思いますが、その際ペットボトルコーヒーやフタ式の缶コーヒーだと「飲みきれるか」という問題も発生してしまいます。

しかし、プルタブ式の缶コーヒーなら、ペットボトルコーヒーやフタ式の缶コーヒーに比べると内容量が少なく、すぐ飲みきれます。

また、自販機で鬼滅缶を購入する場合は、ガチャガチャと同じで、ファンは狙っているキャラがでるまで何本も買うということが予想されますが、缶コーヒーであれば小さいですし、中身も少ないので、何本も買っても飲みきるのにそこまで苦にはなりません。

「買い集めたいファン心理」を正確に捉えて、手軽な「缶コーヒー」を採用したため、ここまで売り上げが伸びたのではないかと推測できるでしょう。

鬼滅の刃とのコラボ、狙いは売り上げだけじゃない?

「なぜ鬼滅の刃とのコラボを成功させることができたのか」を色々考察してきましたが、そもそもなぜコラボをしたのか?というのも気になりませんか?

もちろん普通に考えれば、「社会現象にもなっている作品とのコラボを通し作品のファンに商品を買ってもらうことで、売り上げを伸ばす」というのがコラボ企画の狙いだと思います。

しかし、近年の缶コーヒー市場を鑑みるに、「別の狙いもあるのでは?」ということが見えてきたので、少しだけ考察します。

工事現場や作業現場でのイメージが強かった缶コーヒー


1960年にUCC上島珈琲から売り出され広まっていった缶コーヒー。
発売当時、工事現場や作業現場、長距離運転のドライバーなどのいわゆる「ブルーカラー」の人が好んで飲んでいたことから、今でもそのイメージが少なからず残っています。

缶コーヒーブランドの戦略に徐々に変化が

世の中のIT化が進んで働き方や職種が幅広くなった現代。
もちろん生産現場で働く人もいますが、圧倒的にオフィスの机に向かって働く「ホワイトカラー」が多くなりました。
こういった時代の変化から、各大手缶コーヒーブランドのイメージ戦略にも変化が現れました。

例えば、缶コーヒー市場の2強ブランドの1つ「Georgia」では、「IT」や「リモート」といった雰囲気が分かるCMなどを積極的に発信しています。


また、「Georgia」と同じく缶コーヒー市場の2強ブランド「BOSS」では、ホワイトカラーを対象とした「クラフトボス」というペットボトルの商品の売り出しに力を入れ始めています。

このように、今、缶コーヒー業界には変化が訪れており、ダイドーも「Georgia」「BOSS」と同じように「ブルーワーカー以外の層にも訴求することが必須」と考えたとしても不自然ではないかと思います。

ダイドーは若年層に人気なアニメとのコラボで2強と差別化したのでは?

先述したように、缶コーヒー業界は「Georgia」「BOSS」の2強状態です。
ですので、IT業界や働き方改革を前面に押し出すブランディングでは、負けてしまうのが実情。

そこでチャレンジしたのが「鬼滅の刃」だったのではないでしょうか。
鬼滅の刃とコラボした商品を売り出せば、これまでなかった「若年層」をターゲティングできます。
すると、「Georgia」「BOSS」の市場から外したところで売り上げを伸ばすことができますよね。

ダイドーがコラボした裏には、こういった狙いがあったのではないでしょうか。

競合に勝ち成果を生み出すには「戦略」が重要

社会現象にもなっている「鬼滅の刃」と「ダイドーブレンド」で知られるダイドードリンコ株式会社のコラボ。
今回の事例を通して、企画の成果を出したり、競合に勝っていったりするには、流行や時勢などを把握し、ターゲットのニーズを正確に捉えることが重要であることがわかります。

今後、企業には今まで以上に高度な戦略が求められるようになるのではないでしょうか。

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